企業におけるメンタルヘルス管理の仕組み作りとその参考例

2.2つのうつ病


増加の一途をたどり企業とそこで働く従業員の両者にとって、大きな問題になりつつあるうつ病について見てゆきたいと思います。

日本では欧米に比べうつ病の発生率が、異様に高く、「心の風邪」などと呼ばれ、最も見かけるメンタルトラブルでしょう、仕事の場においても年々増加し続けており、企業に対して最も大きなダメージを与える病気といえるのではないでしょうか。
では、一般的なうつ病の特徴と、発症しやすい人の傾向について調べてみましょう。

1.自らがうつ病で有る事を認めたがら無い。

2.全ての時間においての憂鬱感、気分の落ち込み。

3.全てに対する意欲の低下、喜び、楽しみの喪失。
(趣味やもともと楽しい事であっても、楽しめ無い。)

4.睡眠障害、眠れない。

5.朝は憂鬱感、気分の落ち込みがひどく、夜に向かって序々に改善してゆく。

などが特徴的な症状です、またうつ病に掛りやすい人の傾向ですが。

a.真面目で几帳面、秩序やルールを重んじ、他者への配慮を重視し、何か問題に直面すると、少なからず自責の念に駆られる事が多い。

b.考え方が固定的で、柔軟性に欠ける、多くの事に対して”〜するべき”や”〜しなければならない”などの考えを持っている。

c.こだわりが強く、自分の考えややり方を持っている。

d.ストレスに対する対処が下手、周りに愚痴をこぼしたり、自分なりの発散の仕方をを持たず、多くの場合これといった趣味も無い。

上記の様な性格や考え方を持つ人が、従来から言われる”メランコリック親和型のうつ病”になりやすい性格や考え方です。

a.などは組織を構成する人間の気質としては、全てが美点としか言いようの無く、いずれ管理者としてのポジションに着く可能性の高い、魅力ある人間性だと思います、ただこの部分にb.やc.の不器用さが加わってしまうと、悲劇を招く、そんな形のようです。

上記のような”親うつ気質”の傾向は、日本人には多く40代後半の以上の方であればごく普通にいると思います、この部分が日本のうつ病の発症率が高い理由の一つでしょう。

しかし最近の事例として、旧来の”メランコリック親和型のうつ病”とは明らかに違う”ディスチミア型うつ病”と呼ばれるうつ病の発症が、若い人達を中心として増えています、このうつ病は従来から知られている”メランコリック親和型のうつ病”とは違う特徴を持ち、掛りやすい人のタイプも”メランコリック親和型のうつ病”とは全く違います。

ディスチミア型うつ病の特徴

1.自らうつ病であることを認め、積極的にうつであろうとする。

2.うつの原因と思われる、ストレスの掛る事に対しては抑うつなどの症状が出るが、自分にとり楽しい事などは、普通に楽しむ事が出来る。
(仕事はうつがひどくて出来ないが、遊びには問題無くいける。)

3.他者非難、他責傾向が強い。
(私がうつになったのも、職場の環境が悪いせいだ。)

4.40歳以下の比較的若い世代に圧倒的に多い。



ディスチミア型うつ病になりやすい人の特徴

a.ルールを守るという意識が薄く、他者より自分を優先し何か問題が起こると責任を他者に求める。

b.上司といえど、人から指示や命令をされる事が嫌い。

c.自分の考えや、やり方を持っていて、それに対するこだわりが強い。

従来から有る、メランコリック親和型のうつ病に掛りやすい人の特徴とはまるで反対です、こだわりが強いという処は同じですがこだわる対象は全く違いますし、他の物の考え方や、生き方といった部分では正反対です。

ここまで違う2つのうつに対して同じ病気と考え、同じ対応で良いのでしょうか?

メランコリック親和型のうつ病に対しては、社会的に理解も進み、多くの人も”励まさ無い”などの最低限の対応の仕方を知ってはいるようです、またこちらに関しては、十分な休養、投薬治療、段階的な職場復帰システムなどが有れば、急がずタイミングを間違わなければ復帰出来ますし、復帰後も無理をしない様に序々にならしてゆけば再発も防ぐ事が出来ます。

対して、ディスチミア型うつ病はどうでしょう、こちらも紛れもなくうつでは有るので、基本的な治療としては十分な休養、投薬治療となりますが、うつ症状が有る程度治まり、職場復帰が視野に入ってから復職までの取り組み過程と、復職後のフォローの難しさに、メランコリック親和型のうつ病との大きな違いがあり、違う対応が必要となります。

*私の考えとしましてはこの2つのうつ病は、うつ症状は同じでも、全く違う物として対処する事が必要と考えます。

ディスチミア型うつ病のメカニズムとその対処

なぜディスチミア型うつ病と、メランコリック親和型のうつ病では違う対応が必要となるのでしょうか、メランコリック親和型のうつ病では、十分な休養と投薬治療、回復後に焦らず、適切な環境が用意されれば、治癒率は高く、ずるずると後を引く事はあまり有りません。

対してディスチミア型うつ病は抑うつ症状自体は、メランコリック親和型のうつ病より軽い事が多く、休職中の行動なども病気とは思えない様な行動も取るのですが、いざ復帰となると症状が悪化したり、復帰後すぐに再発し再び休職となる確率はこちらの方がはるかに高いのです。

この原因を探る為、ディスチミア型うつ病発症のロジックを考えてみます。

まずディスチミア型うつ病になりやすい人の傾向から、現在の30代以下の人達の育って来た環境を考えてみます、その世代の人が生きて来た環境のキーワードは「自由」と「努力」です、誰でも好きな事をする自由が有り、またやりたくない事をやらない自由も認められてきました、その反面「責任」という言葉は教えられずに、「我慢」や「耐える」という言葉を意識した事は無いでしょう。

また努力する事に最大の価値がおかれ、たとえ結果が悪くとも自分なりに考え”頑張り””努力”さえすれば褒めてもらえ、うまくいかなかった場合は、頑張って出来なかったら仕方が無いで済まされる、競争は差別を生む悪とされ、競争心を表に出すと怒られる、そんな環境の中で自由にノビノビ、何の挫折も乗り越えた経験を持たずして社会に出てきているのです。

そんな人達が社会に出る以前に身につけて来た成功モデル、「自分なりに頑張る」が通じ無い事態に直面し、初めての挫折を味わった結果、発症に至る。
生まれて1度も困難を乗り越えた事の無い人間に、本当の意味での自分自身に対する自信が有る訳が無いですから成功以外の結果は受け入れられず、失敗を恐れるあまり、1度失敗した事に再チャレンジしたり、未知の世界に足を踏み出す事はできず、また、成功の保証の無いやりたくも無い事を、結果が出るまで我慢してやり遂げる事などは無意味な行動以外なにものでもありません。

そんな、失敗や我慢しなければなら無い現実から逃げ続ける結果、いつまでも治らなかったり、復帰、再発を繰り返し続ける事に繋がっているのです。

ではそのようなディスチミア型うつ病を発症した社員に対し同対処するべきなのでしょうか。

十分な休養と投薬治療により、抑うつ状態からのある程度の回復まではメランコリック親和型のうつ病と同じです、休養と治療の結果、抑うつ感が減退し復職が視野に入った時から、ディスチミア型うつ病患者の本当の意味での治療を始めます、ここでの治療とは、カウンセリングやソーシャルスキルトレーニング、アサーショントレーニングなどを用いて、組織の中に適応できるように考え方や価値観・行動を変えてゆく試みとなります、本人が変ろうと思うか、変わらざるを得ないと諦めて、行動を変化させてゆくまで続けてゆきます、もしここで考えが変化した場合、適切な環境と援助があれば、再発の可能性はかなり低減される事になります。

メランコリック親和型うつ病とディスチミア型うつ病の復職モデル




ディスチミア型うつ病に対する対処の要点

休養、治療の結果、うつ状態の改善の後、リハビリ期間中の対処

1.職場復帰までの明確なタイムリミットを決めて伝える。
伝え方としては、「〜までに職場復帰してください」などでは無く、「会社としては精一杯待つので、その間に会社とあなたにとってより良い環境を作る努力をお互いがしてゆこう。」という気持ちを伝える。

2.カウンセリングや話し合いにより、うつに至った原因や職場復帰条件の洗い出し。
本人の話や希望を聞き、うつに至った原因や不満などを聞き出し、また会社側の希望を伝へ職場復帰条件や復職プログラムへの移行条件について話し合う。

3.職場復帰までの明確な条件の決定。
2.の話合いを基に、具体的で明確な復職プログラムへの移行条件と、具体的で明確な職場復帰条件の決定、”復帰に向けての条件の合意書”として書面を作り本人、会社側ともに捺印して保管。

*条件に関しての注意事項として、本人の合意の上での条件で無ければ意味はありません。

4.カウンセリングと話し合いを通して、考え方や行動の変化を促す。
この部分が最も大事な部分です、本人が環境に適応する為の考え方や行動の変化を受け入れる事が出来るまで、根気強く話しを聞きながら、自己直面化を促してゆきます。

*残念ですが、この段階から先に進まず時間切れになる場合も多数となるでしょう。

5.状況によって、ソーシャルスキルトレーニングやアサーショントレーニングを実施し、行動面の具体的な変化を促してゆきます。
もし、本人合意の上で5.まで辿りついた場合、将来的に大きな成長が見込めます、復帰直後の経過察期間を無事に過ごせれば、再発の心配もあまり無く、会社にとって大きな戦力化が期待できます。

ディスチミア型うつ病を発症した人に対して本当に必要な事は、社会や組織に適応する為の考え方や行動を教え、自分の人生や生活に対して自ら責任を持つという意識を芽生えさせる事となります。

言い方を変えれば、社会人として未熟である部分を気づかせ、社会人として最低限の考えを持ち、行動がとれる様に育て直すという事です。

本来、社会人として育て直す事は、一企業の活動の範疇では無いかもしれません、しかし適切な対策を講じることが無ければ、年々増え続ける”社会人として未熟”、な社員が引き起こす、ディスチミア型うつ病を発症や、それを管理する側の心労から来るメランコリック親和型のうつ病の発症、組織全体のモラル低下などの問題は、企業にとって確実にダメージとなって業績にも反映されてゆくのです。

反対に”社会人として未熟”な社員を戦力化出来る企業は、単にそれが戦力が一人増えただけにはとどまらず、その、人に対する姿勢が企業風土となり、社員全員の安心感と共にモラルも上がります、その企業風土こそがメンタルヘルス維持に最も効果的に作用し、自然と業績にも反映してゆく事になってゆきます。

<< 前へ  このページのトップへ  次へ >>