企業におけるメンタルヘルス管理の仕組み作りとその参考例

4.一つ一つのメンタルヘルス管理施策のポイント

A-1 就業規則の整備の意味

なぜ就業規則の整備が最も重要なのでしょうか、就業規則を整備したからと言ってうつの発症率が下がる事はありません、しかし就業規則の整備は、”会社を守り、雇用を守る為”に絶対に必要な施策となります。

残念な事ですがうつ病やその他の精神疾患は、会社がどんなに頑張り努力しても100%治癒するものではありません、また治るのに5年、10年の時間がかかる事も普通に存在します、そんな時、経営にゆとりがあり、治癒するまで待てたり、一人の為に特別な環境を提供できる企業なら問題ありませんが、大多数の企業にとってそれが出来るゆとりが無いのが現実でしょう。

もし会社の中に、そんな状況に陥った社員が発生した場合、最終的に解雇の判断を下さざるを得ない事は起こりえます、しかし、”病気を理由とする”解雇は法律により認められません、従業員を解雇する場合、就業規則に乗っ取り、規定の休職期間が過ぎてもなお労務の提供が不可能な場合、30日以上の解雇予告期間を経て解雇”することができるようになるのです。

もし休職規定や解雇規定に適正な条項が無い場合、解雇は出来ないと考えた方が良いでしょう、その場合の解雇する為の条件は、”療養期間が3年を超え、打ち切り補償を支払う事”が条件となります、ちなみに打ち切り補償とは平均賃金の1,200日分となっており、1,000万円を超える事が普通です、場合によってはこれ一発で会社が傾きますし、倒産する場合もあるでしょう、会社がそんな危険な状態に陥る事があってはなりませんので、就業規則は最優先で整備しなくてはなりません。


A-1 就業規則の整備のポイント

休職条項について

・原因が業務外の傷病であっても適用するのか。
・最大休職期間はどのくらいか。
・休職と復職を繰り返した時の扱い。
・休職中の賃金の支給は。
・休職中の健康保険本人負担分の取り扱い。
・休職中は勤続年数とカウントされるのか。
・休職中の連絡の取り方や担当窓口。

復職・退職条項について

・復職・退職条件の明記。
・復職・退職手続きの明記。




A-1 就業規則の例

休職条件

会社は社員が次に上げるいずれかに該当する場合、社員の申しで、または会社の指示により休職を命じる事が出来る。
また休職の事由が業務外の傷病を原因とした場合、その傷病が休職期間内で治癒する見込みが高いと判断された場合に限る。

1.業務外の傷病により一カ月にわたり欠勤が継続し、治癒に至らない時。

2.業務上の災害により労務の提供ができない状態に陥った時。

3.1.2.号以外ので業務上の必要がある場合、、または特別な事情により休職することを会社が認めた場合。

休職期間

1.休職期間は、勤続年数に応じて最長で次の通りとする。

勤続1年未満の者3ヶ月
勤続1年以上3年未満の者6ヶ月
勤続3年以上5年未満の者12ヶ月
勤続5年以上の者18ヶ月

2.休職後3ヶ月以内に、前休職の事由と同じ傷病が原因となる休職に至った場合休職期間はこれを合算して数える。

休職条件

1.休職期間中の賃金は、これを支給しない。

2.休職中の健康保険本人負担分は、会社が負担し支払うものとする。

3.休職期間はこれを勤続年数とは数えない。

4.休職者は休職期間中、一カ月に1度は状況を会社に報告する義務を負う、傷病にによる休職の場合は、報告の際に医師の診断書を添えるものとする。
休職中の連絡は休職以前の上司で無く、人事課休職担当社とする。

復職条件

1.休職期間満了前に休職の事由が消滅した場合、休職者はただちにその旨を会社に通知し、所定の手続きの後、速やかに復職するよう努めなければならない。

2.復職の手続きとして、復職者は”復職願い”を人事部に提出するものとする。
なお、傷病が休職の事由であった者は”復職願い”と共に、復職が可能であるとする医師の診断書も提出するものとする。

3.復職後の職場、業務内容、労働条件、賃金などの待遇面については、休職以前の待遇を基準として、会社が定めるものとする。
復職時に、休職以前と比べ著しく低い労務提供となった場合や、業務の軽減措置が必要となった場合、状況に応じた、賃金の引き下げや、降格などの調整がされる場合もあるものとする。

退職条件

就業規則に定められた休職期間が満了してもなお、休職の事由が消滅しない場合、解雇とする。

就業規則に、以上のような条文が無い場合は、すぐに見直す必要があります。

*一つ気をつけなくてはなら無いことは、同じ休職で合っても業務上の傷病(いわいる労災認定された傷病です)が原因となる休職については、定められた休職期間がすぎたとしても、解雇はできません。

業務上の傷病(いわいる労災認定)は法律により「解雇制限」がかかっており、就業規則がどうであろうと、”傷病の療養の為に休職している期間及び、その後30日”は解雇出来ないと定められています。

労災認定を受けている休職者を解雇する為には、前述した”療養期間が3年を超え、打ち切り補償を支払う事”が条件となります。


精神疾患の場合、10年20年のスパンで治療期間が必要な時があります、労災認定された傷病が原因でそのような事になった場合、10年20年と雇用し続ける義務が生じます、そうならない為にも、残業を減らす体制を作り上げてください、残業を減らす事が企業のメンタルヘルス管理の基本の一つであることは間違えありません。

*ちなみに労災認定の目安としては傷病発生以前6カ月間の1か月平均残業時間が、80時間を超えるか、単月であっても100時間を超える場合には認定される事が多いようです。

A-2 復職プログラムを含む、復職計画の策定

チャート:復帰プログラムスケジュール(PDFファイル)

何の対応も支援も無い、うつ病からの職場への復帰には多くのリスクが伴います、たとえ9割治っていたとしてもちょっとした事が切っ掛けで、次の瞬間から、悪化への坂道を下り降りている事も珍しい事はではありません。

そうならない為には、うつ病からの復帰する為の良い環境と、周りの人達の細心の注意が必要となります、しかし残念ながら治りかけのうつ病は千差万別、一見もう完治していると見間違えるような人もいれば、大丈夫か?と気が気でないような人まで存在し、何が悪化への切っ掛けになるかは非常に分かりずらく、周りにいる人達にとって相当な精神的負担となります、最悪の場合その精神的な負担が引き金となり、連鎖的にうつ病となる人も出てくるかも知れないのです。

そうならなら無い為には、全てを現場レベルで対応するのでは無く、ある程度知識を持った担当や復職の為のプログラムなどの整備などに取り組み、かつ、その存在や取り組みを、全ての社員に対して知ってもらう事が重要です、その為の仕組みとして、復職プログラムを中心に全体の対応システムについてご説明させていただきます。

1.うつ病からの復職プログラムの効果

A 復職者にとって、より良い環境を作れる事によって問題の無い現場復帰、復帰時間の短縮や再発予防に効果がある。
B 復帰者を受け入れる人達の負担を減らし、連鎖的なうつ病の発生や、現場全体の効率低下を防ぐ。
C 社員側より見て、会社側のメンタルヘルスへの取り組みを印象付ける事が出来、その結果漠然とした将来への不安に対する低減効果が見込める。(うつ病の発生率の低下)

2.うつ病からの復職プログラムの内容

本復職プログラムコンセプトは、復職者や受け入れ側に対して無理な負荷をかけずに、復職者に対して段階的な社会適応を促し、復職者のうつ再発や、受け入れ側の業務上の効率低下を最小限に留め、復職者が円満な職場復帰をすることを目指しております。

以下、簡単に流れを記してゆきます。

*復職プログラム実施の条件として2つ、お医者様の復職許可と本人の復職に対する希望が無い限り実施いたしません。

*復職プログラム実施となった場合、実施前に復職プログラムの内容と各ステップの合格、不合格の基準を記した書面を渡し、直接担当者が説明をする事が必要です。



ステップ1 定時連絡と状況報告の確認

A自分の状況を簡単にまとめ、決められた時間にメールにて報告。
B何か課題を持たせ、朝9:00に前日の状況のまとめと課題の達成状況をメールで報告。
C最後の何日かは、Bの報告プラス夕方に電話報告、もしくは朝夕2度のメールでの定時連絡。

期間:1週間〜2週間

合格条件・期間中に定時連絡を1度も欠かす事が無ければステップ2へ。

・報告忘れが1度だけの場合、リカバリーの行動が取れていれば合格
*連絡を忘れたと気づいたその場の連絡や、次の日のメールにお詫びが有る場合など。

・2度以上の報告忘れは、即不合格として復職プログラム中止再び休養に専念。

ステップ2 通勤テスト

*ステップ2の段階では、ステップ1の朝の定時連絡や夕方の定時連絡を、続けてください。

12:00に会社に出社、通勤の模様や感想などを報告した後、帰宅。

期間:1週間

合格条件・期間中に1度も遅刻、欠勤、が無ければステップ3へ。


・報告の有る理由ある遅刻、欠勤、が有った場合、1日だけであればステップ2のやり直し、もし2日以上になったり、やり直し期間中にまた遅刻、欠勤、が発生した場合、復職プログラム中止。
・報告の無い理由なき遅刻、欠勤、早退の場合復職プログラム中止。

ステップ3 出社テスト

朝9:00に出社12:00まで自由行動、業務は行わづ、報告書作成の後、帰宅。

期間:1週間

合格条件・期間中に1度も遅刻、欠勤、早退が無ければステップ4へ。

・報告の有る理由ある遅刻、欠勤、早退が有った場合、ステップ2と合わせて1日だけであればステップ3やり直し、両方を足して2日以上になった場合や、やり直し中にまた遅刻、欠勤、早退が発生した場合、復職プログラム中止。

*ステップ2での中止と、ステップ3での中止には大きな違いが存在します、ステップ3以降で中止となった場合、それ以前に中止になった場合より、再び復帰プログラムを実施するまでの時間は、短くて良いでしょう。

・報告の無い理由なき遅刻、欠勤、早退の場合復職プログラム中止。

復職プログラム中止となった場合、必ず担当者が顔を合わせながら話をし、フォローする様にしてください、会社は復帰するのを待っている事、しかし復帰を焦る必要は無い事をしっかりと伝えてください。

ステップ4 業務テスト

朝9:00に出社12:00まで担当者の下で軽作業、報告書作成の後、帰宅。

期間:1週間

合格条件・期間中に遅刻、欠勤、早退が無い場合、はステップ5へ。

・期間中に報告の有る理由ある遅刻、欠勤、早退が有った場合、1日であればステップ4をやり直し、もし,やり直し期間中に再び遅刻、欠勤、早退が発生すした場合即復職プログラム中止。

・期間中に遅刻、欠勤、早退を2度した場合即復職プログラム中止。

・報告の無い理由なき遅刻、欠勤、早退の場合、担当者から連絡を取り、連絡が取れずに翌日まで放置される様で有れば即復職プログラム中止、連絡がつき、報告がある様であれば、報告の有る理由ある遅刻、欠勤、早退と数える。

*ステップ4における軽作業は、復職者にとって責任が発生しなければなんでも構いません、研修でも構いませんし、本業務と同じ作業でも構いません、ただ、失敗しても何も責任が無い物で無ければなりません。

*ステップ4以降では、担当者から見て復職者の疲労が激しい場合、強制的に休ませて下さい、その場合、この休日は復職プログラムの一部であると説明し、復職者を安心させるよう配慮してください、この強制休養は1日だけとして合格判定は無関係とします。


ステップ5 業務リハビリ

A 朝9:00に出社15:00まで担当者の下で実作業、報告書作成の後、帰宅。
B 朝9:00に出社18:00まで担当者の下で実作業、報告書作成の後、帰宅。

期間:2ケ月程度

合格条件・期間中に遅刻、欠勤、早退が有った場合、4日未満であれば、検討の末、ステップ6か、ステップ5の延長。

・期間中に遅刻、欠勤、早退が有った場合、5以上日であれば即復職プログラム中止。

*ステップ5では、担当者から見て復職者の疲労が激しい場合、強制的に休ませてせて下さい、その場合、この休日は復職プログラムの一部であると説明し、復職者を安心させるよう配慮してください。

ステップ6 業務復帰試験

現場に入り朝9:00に出社18:00まで実際の業務をこなしてもらいます。

初日、5日目、最終日と担当者と話す機会を設け、その後現場責任者などと共に、復帰判定をします。

期間:2週間

復帰条件・2週間の現場の行動と面接の結果より、現場責任者との話し合いで決定する。
復帰が無理な場合は、ステップ5に戻る。


A-2 復職計画のポイント

・復職プログラム実施中の休職者の所属や責任をどうするか。
・復職プログラム実施中の休職者への賃金をどう取り扱うか。
・復職プログラムの進捗は誰が判断するのか。

*うつ病などから立ち直りかけている復職プログラム実施者への対応は、気を使い非常に精神的にも疲れる作業となります、出来るだけ専用の担当者を決めて対応してください、休職以前の上司に面倒を見させるような事は、絶対避けるようお願いします。

*復職プログラムだけでは無く、うつ病などの発症者に対しては、なるべく発症者と利害関係の無い人間を担当とするようにお願いします、利害関係がある者が窓口だと、無理か反発のどちらか起きる事が多く、休職者に負担がかかります。


A−3 メンタルヘルス担当者や緊急連絡先・医療機関などの設置の解説

・問題が発生した時、どこに連絡を取り対応してゆくのかを決めておく。
・問題が発生した時に、社内担当者、産業医、提携医療機関、カウンセラーなどの決定。


B-1 社内の不満や問題の相談窓口の設置の解説

・メンタルヘルス問題予防の為の施策として、重要度が高い施策となります。

ポイントとしては、利用する従業員が不平、不満をぶつける場所として、いかに気軽に、安心して利用が出来るかです、ストレスを不満という形で外に出す事が出来れば、うつ病を発症する危険性はかなり低減されます。

またここに寄せられた不満の中で、合理性のあるもっともな話しもあると思います、そんな場合に会社を改善する為の一つのきっかけになるのではないでしょうか、それが出来れば、従業員のモラルや会社への忠誠心といった、目にはみえない最も重要なファクターが改善され、強い企業となってゆく事が出来るでしょう。

・この部分は絶対に外部に委託して運営してゆくべきです、社内に窓口を設置したとしても、従業員としてはなかなか本音をぶつける事は出来ず、表面上のやり取りの末何も解決せず余計なストレスをため込む事になりかねません。

・方法としては、電話、カウンセリングなどを基本に、Web上の書き込み相談とメールでの相談などが必要となります、今の若い人達はメールなどでは自分の気持ちを吐露する事は出来るのですが、会話の中で心の内を話す事はあまりありませんので、若年層に対するアプローチとして、メールやWebを使った相談は必須です。


B-2 定期的なカウンセリングや質問紙などによるメンタルチェックの解説

・定期的なカウンセリングや質問紙などにより、問題の早期発見、早期対処を目指すと共に、従業員個々の個性や考え方の傾向を掴み、一人一人に合った接し方や指導法を見つけてゆきます。

・B-2の施策の最も重要な事は、従業員のみなさんがどれだけ会社を信頼しているか?
という事です、信頼度が低い場合、十分注意をして取り組まなければマイナスの効果の方が大きくなってしまいます。


B-3 マネジメント層に対するメンタルヘルス・マネジメント研修の解説

・メンタルヘルス問題予防の為の施策として、最も重要で取り組みやすい施策ですが、漠然としたメンタルヘルスの基本教育では効果は薄いでしょう、今現場でどんな問題があるのかを掘り下げ、対処方法を考えてゆく事と、なによりマネジメント層が部下一人一人の変化を気にかける意識を持たせる事が最大の目的となります。

・B-1、B-2と組み合わさりうまく機能する事が出来れば、大きな効果が期待できます。

B-1、B-2で得られる個人個人のデータから、適切な接し方や指導法を学ぶ事が出来マネジメント層がそれを生かす事が出来れば、会社のモラル向上に絶大な効果をもたらし、うつ病発生率だけでなく、退職者なども大幅に減る事になる事は間違いありません。

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